■ 「内覧会ブルー」
  
  
     
  
  
     内覧会が恐い。部屋の内装がめちゃくちゃなのではないか。いたるところ傷だらけで、床がたわみ、壁が傾いているのではないか。直しの指摘箇所が数百カ所にのぼるのではないか。
  
  
     内覧会は、自分の買ったマンションのダメ出しをする会である。入居前に、ダメな所を指摘して直させるのである。しかし、ダメな所というより、部屋全体がダメなことがあるのだ。
  
  
     内覧会で落ちこむ人が多いのだ。
  
  
     「内覧会ブルー」という掲示板があるくらいだ。
  
  
     
  
  
  
     
  
  
     もちろん、三菱地所は、これほどひどくはないとは思う。
  
  
     しかし、安心は出来ない。
  
  
     三菱地所についても、次のような書き込みがある。
  
  
     
  
  
    
      
        | 132 名前: 名無し不動さん 投稿日: 02/01/01 14:39 ID:???
 ……〔略〕……
 地所は図面(モデルルーム)と出来上がりが違うなどがいくつかありました。
 あと入居後もね、欠陥じゃないんだけど人災みたいなのがぼろぼろと。
 問題は地所側が引渡し前にほとんどチェックをしていない為(これは認めていた)
 気づいてもいないということ。
 ……〔略〕……
 
 137 名前: 名無し不動さん 投稿日: 02/01/03 20:11 ID:???
 >132
 たしかに言うとおりかも
 都内じゃないパークハウス買ったけど内覧会でなんでこんなの気づかないんじゃい          
          って人為的ミスが多かった
 ……〔略〕……
 
 三菱地所vs三井不動産
 http://caramel.2ch.net/estate/kako/1008/10081/1008150361.html
 
 | 
    
  
  
     
  
  
     心配である。三菱地所は「ほとんどチェックをしていない」のではないか。「人為的ミス」が多いのではないか。(もちろん、匿名掲示板の書き込みを完全に信じる訳ではないが。)
  
  
     売主である三菱地所が、内覧会前に部屋をちゃんと「チェックをして」「人為的ミス」をなくしておくべきである。また、内覧会での指摘箇所が半分近く直っていなかったというような話もよく聞く。施工会社がいいかげんな対応しかしないのだ。これも、売主が「チェックをして」防ぐべきだ。
  
  
     
  
  
     
  
  
    ■ 要求書
  
  
     
  
  
     上のような事態を防止したい。
  
  
     だから、三菱地所に対して次のような要求書を送った。
  
  
     
  
  
    
      
        | 三菱地所株式会社
 
 樋口 和之 様
 
 以前、私は次のような原理を述べました。
 
 「理想状態を考えると、内覧会は存在してはいけない。マンションは売
 主が責任を持って完成させるべきである。完成品として、買主に引き渡せ
 ばよい。内覧会というのは、不具合があるということを前提とした会であ
 る。買主に不具合を指摘させる会である。しかし、買主に頼ってはいけな
 い。そんな会を開くのではなく、売主が責任を持って完璧にすればよい。
 こう考えると、全体の構造が見えてくる。本来、マンションの出来につ
 いては売主が全責任を負うべきなのである。買主が不具合を指摘するのは
 あくまでも付け足し、念のためである。だから、内覧会という名称を止め、
 〈念のため会〉とでも言った方がよい。売主は、完成品としてのマンショ
 ンを買主に見せる。買主は、それを念のために見るのである。」
 
 もちろん、この理想状態を実現するのは難しいでしょう。
 しかし、売主はこの理想状態を目指して努力するべきです。
 だから、問題は、売主がどれだけ理想状態を目指して努力したかです。
 売主としての三菱地所がどのような努力をしたかです。
 大きな問題があります。
 三菱地所は次の二つをおこなっていないのです。
 
 1 完成検査記録の提出
 2 内覧会への立ち会い
 
 これでは、三菱地所の努力が全く感じられません。だから、次のように
 疑われてもしかたありません。
 
 「三菱地所は、大した検査をしていないから完成検査記録を提出できな
 いのではないか。何の努力もせずに、戸田建設に丸投げしているのではな
 いか。また、内覧会に立ち会わないのは、売主として責任を取る姿勢が無
 いからではないか。」
 
 私自身は、このようには考えていません。三菱地所は努力しているので
 しょう。しかし、それが伝わらなければ意味がありません。努力している
 中身が伝わらなければ、安心できないのです。情報を公開して、買主を安
 心させるシステムが必要です。(安心していないからこそ、内覧会同行業
 者を頼む買主が大勢いるのです。)
 また、情報を隠すと、隠したこと自体が別種の問題を発生させます。情
 報を隠せば隠すほど、何か都合が悪い事柄を隠しているのではないかと疑
 われるのです。
 施工図についても同じことが言えます。三菱地所は、施工図のコピーを
 断っています。それでは、何か都合が悪い事柄でもあるのではないかと疑
 われます。
 次の三つを要求します。
 
 1 三菱地所による完成検査記録の提出(検査者の氏名を明示したもの)
 2 三菱地所の内覧会への立ち会い
 3 施工図のコピーの提出
 
 これは要求です。買主が、売主に強く求めている訳です。
 ですから、この三つをおこなわないことは特別の意味を持ちます。〈買
 主の要求を売主が拒否した〉ということになるのです。それは穏やかでは
 ありません。
 要求を拒否する場合は、理由を述べるべきでしょう。文書による回答を
 求めます。
 ……〔略〕……
 
 | 
    
  
  
     
  
  
     
  
  
    ■ 三菱地所の回答
  
  
     
  
  
     この要求書の意味は明白であろう。
  
  
     三菱地所はこの要求書にどう応えたか。
  
  
     それでは、三菱地所の回答を見てみよう。(三菱地所株式会社・三菱商事株式会社・菱進都市開発株式会社の連名での回答である。)
  
  
     
  
  
    
      
        | 1.三菱地所による完成記録検査記録の提出
 (回答)
 ○○○○は、完成した建物を販売対象とする不動産売買契約に基づく分譲
 マンションでありますので、ご契約者の皆様に建設過程の検査結果は公開
 しておりませんのでご了解頂きたくお願い申し上げます。
 
 ……〔略〕…… (注1)
 
 2.三菱地所の内覧会への立ち会い
 (回答)
 ○○○○の売主三社は、三菱地所住宅販売鰍代理人として販売から引渡
 までの業務を委託しており、売主社員の内覧会への立ち会いを行っており
 ません。又、内覧会におきまして、お客様から頂くご質問・ご指摘につい
 ては、迅速に施工の詳細をご説明出来るよう、施工会社の社員等がご案内
 することとさせて頂いております点も併せてご了承のほど宜しくお願い申
 し上げます。
 
 3.施工図のコピーの提出
 (回答)
 施工図は、施工会社が建設現場で施工することを目的として作図されたも
 のでありますので、ご契約者の皆様にお見せしておりません。しかしなが
 ら建築確認取得時の設計図書につきましては、○○○○建設現場の内覧会
 会場にご用意しておりますので、お申し出のありました際は、閲覧にてご
 対応させて頂いております。
 〔マンション名は伏せ字にした。〕
 
 | 
    
  
  
     
  
  
     
  
  
    ■ 激怒する哲学者
  
  
     
  
  
     この回答を読んで、私は激怒した。
  
  
     読者の皆さんにも、ぜひ、私が激怒した理由をご理解いただきたい。
  
  
     1で三菱地所は次のように言う。
  
  
     
  
  
     「完成した建物を販売対象とする不動産売買契約に基づく分譲マンションでありますので、ご契約者の皆様に建設過程の検査結果は公開しておりません」
  
  
     
  
  
     なぜ、三菱地所は「不動産売買契約」などと言うのか。いきなり法律を持ち出して、ケンカ腰である。法的義務は無いと言っているのだろう。しかし、義務でなくても、すすんで公開すればよいのだ。買主にとって法的義務の有無など関係がない。これは売主側の都合を述べたに過ぎない。
  
  
     三菱地所は、法律まで持ち出して公開しないと言う。異常にかたくなである。三菱地所には、何か公開できない訳でもあるのではないかと不安になる。(他社は何らかの形で公開しているのだ。)
  
  
     既に、私は要求書に次のように書いていた。
  
  
     
  
  
     「三菱地所は、大した検査をしていないから完成検査記録を提出できないのではないか。」
  
  
     「また、情報を隠すと、隠したこと自体が別種の問題を発生させます。情報を隠せば隠すほど、何か都合が悪い事柄を隠しているのではないかと疑われるのです。」
  
  
     
  
  
     このように書いている顧客に、法律まで持ち出して「情報を隠す」回答をしたらどうなるか。さらに不安になる。これは顧客対応としておかしい。顧客を不安に陥れるような回答をしているのである。少なくとも、「ちゃんと検査はしております。……」と何らかの説明が必要である。
  
  
     2も同じように自己中心的である。私は要求書に書いた。
  
  
     
  
  
     「何の努力もせずに、戸田建設に丸投げしているのではないか。」
  
  
     
  
  
     私は戸田建設への「丸投げ」を心配しているのだ。
  
  
     その相手に対して、三菱地所は何を書いたか。
  
  
     
  
  
     「内覧会におきまして、お客様から頂くご質問・ご指摘については、迅速に施工の詳細をご説明出来るよう、施工会社の社員等がご案内することとさせて頂いております」
  
  
     
  
  
     三菱地所は、戸田建設(施工会社)への「丸投げ」を心配している相手に、〈戸田建設が案内するから安心しろ〉と言った訳である。三菱地所はケンカを売っているのだろうか。めちゃくちゃである。これで安心できる訳がない。ますます不安になる。
  
  
     施工会社が内覧会の場にいるのは当然である。その施工会社を、売主がちゃんと監督せよと言っているのだ。マンションの出来に責任を持てと言っているのだ。
  
  
     三菱地所は言う。
  
  
     
  
  
     「○○○○の売主三社は、三菱地所住宅販売鰍代理人として販売から引渡までの業務を委託しており、売主社員の内覧会への立ち会いを行っておりません。」(注2)
  
  
     
  
  
     「行っておりません」とは売主側の都合を述べたに過ぎない。
  
  
     これだけで済ませば、顧客が不安になる。「代理」で大丈夫だという説明が必要である。不安である。販売「代理」には、施工会社に指示をする権限がない。指示が出来るのは、売主の三菱地所なのである。売主だからこそ、施工会社への抑止力になるのである。
  
  
     3も自分の都合を述べただけに過ぎない。「施工することを目的に作図されたものであ」るから何だというのだろうか。「施工することを目的に作図されたもの」を顧客のために使ってはいけない訳ではない。自分のマンションの内部がどのようになっているかを知りたいのは当然である。また、コピーの形で手元に持っているからこそ、事前に検討することが出来るだ。
  
  
     以上で、三菱地所の回答を読んで私が激怒した理由をご理解いただけたと思う。上の回答は、私の文章を全くふまえていないのである。(私の文章の引用すらない。)顧客の不安を無視して、自己中心的に自分の都合だけを述べた文章なのである。
  
  
     
  
  
     
  
  
    ■ 顧客の不安を増大させる三菱地所
  
  
     
  
  
     三菱地所の回答は、顧客にきちんと対応していない。三菱地所の回答を読んで、私はさらに不安になった。
  
  
     既に、私は要求書に次のような形の不安を書いていた。
  
  
     
  
  
     「三菱地所は、大した検査をしていないから完成検査記録を提出できないのではないか。何の努力もせずに、戸田建設に丸投げしているのではないか。また、内覧会に立ち会わないのは、売主として責任を取る姿勢が無いからではないか。」
  
  
     
  
  
     そして、情報公開を要求した。三菱地所のコミットメントを要求した。
  
  
     つまり、私の要求書は次のような形になっている。
  
  
     
  
  
    
      
        | 1 三菱地所がきちんと仕事をしているかどうかが不安である。
 2 だから、情報公開せよ。コミットメントせよ。
 
 | 
    
  
  
     
  
  
     三菱地所は、2だけに対応した。2を断っただけである。
  
  
     しかし、顧客への対応としてこれだけでいいのか。不安だから情報公開を求めている顧客に「情報公開しない」とだけ伝えたらどうなるか。ますます不安になる。問題がもっと大きくなる。
  
  
     三菱地所は、顧客の不安に対応するべきなのだ。きちんと仕事をしていることを伝えるべきなのだ。情報公開しなくても大丈夫だということを説明するべきなのだ。(説明できないのかもしれないが。)1への対応が必要なのだ。
  
  
     三菱地所は、要求を拒否すればそれで話が済んでいると考えているらしい。これは、一般のサービス業とかけ離れた感覚である。
  
  
     
  
  
     
  
  
    ■ 〈悪徳マンション業者戦略〉
  
  
     
  
  
     なぜ、三菱地所はこんなにかたくななのだろうか。顧客を不安に陥れても、拒否を貫くのだろうか。
  
  
     情報を公開しないことが、彼らの戦略であるからかもしれない。私の要求が彼らの重要な戦略を否定しようとしているからかもしれない。
  
  
     〈悪徳マンション業者戦略〉という戦略を考えてみよう。
  
  
     あなたが悪徳マンション業者だとしよう。
  
  
     悪徳なので、とにかく利益を最大にしたい。
  
  
     どうしたらいいか。
  
  
     次のようにすればよい。まず、建築費をケチる。いいかげんな職人を雇い、いいかげんなマンションを作る。
  
  
     それを内覧会で見せる。客は驚く。しかし、あなたは言い張る。「これが普通です。手作りですから、こんなものです。」
  
  
     それでも文句を言ってくる客の部屋は直す。何も言ってこない客の部屋は直さない。
  
  
     こうすれば、利益は最大になる。多くの部屋を直さないで済ますことが出来るからである。
  
  
     このような戦略を〈悪徳マンション業者戦略〉と呼ぼう。客によって、自分の行動を変えるのである。うるさい客だけに対応するのである。
  
  
     
  
  
     
  
  
    ■ 悪用可能なシステム
  
  
     
  
  
     三菱地所はこのような戦略を使っているのかもしれない。
  
  
     しかし、私が論じたいのは、三菱地所が上のような〈悪徳マンション業者戦略〉を使っているということではない。三菱地所の情報公開拒否はこのような戦略に悪用可能であることである。
  
  
     三菱地所は情報公開を拒否している。次の三点を拒否している。
  
  
     
  
  
    
      
        | 1 三菱地所による完成検査記録の提出(検査者の氏名を明示したもの)
 2 三菱地所の内覧会への立ち会い
 3 施工図のコピーの提出
 
 | 
    
  
  
     
  
  
     悪徳業者なら、この三点を次のように利用できる。
  
  
     売主としての「完成検査」はきちんとやらない。きちんと検査をしてしまうと、重大な欠陥を見つけてしまうかもしれない。見つけてしまったらは、直さなくてはいけなくなる。だから、建設会社に丸投げしておく。これで、売主は欠陥を見つけないで済む。建築会社に責任を押しつけられる。
  
  
     建築会社に責任を押しつけるのだから、売主が内覧会に立ち会うわけにはいかない。その場にいて、売主が欠陥を指摘をされたら、責任が生じる。建築会社しか欠陥の指摘を聞かないようにしておく。こうしておけば、欠陥の直しがいい加減だったとしても、建築会社の責任に出来る。
  
  
     施工図のコピーを渡すと、欠陥を発見するために利用されるおそれがある。コピーを専門家に見せて相談されてしまうかもしれない。欠陥があるまま部屋を受け取ってもらいたいのだから、情報を公開する訳にはいかない。
  
  
     このように上の三点は、悪徳業者が利用可能なのである。
  
  
     〈悪徳マンション業者戦略〉を実行するために都合のよいシステムなのである。
  
  
     
  
  
     
  
  
    ■ 時代遅れの会社
  
  
     
  
  
     三菱地所が悪徳業者であるかどうかは不明である。
  
  
     しかし、情報公開を拒否した時点で、悪徳業者の側に立つことを宣言してしまったのである。悪徳業者が利用可能なシステムを認めてしまったのである。悪徳業者を利する行動をしてしまったのである。
  
  
     私は、この件について多くの知人の意見を求めた。
  
  
     三菱地所の行動にあきれる意見が大半である。
  
  
     
  
  
    
      
        | は? まだそんなことをしてるんですか? 三菱地所は。
 
 売主が内覧会に立ち会わない? 信じられません。野村不動産は立ち会いましたよ。
 
 え? それはひどいですね。三菱系には何か傾向があるんですかね。
 
 | 
    
  
  
     
  
  
     みんな等しく疑問形で応えた。
  
  
     彼らは口々に〈今時、そんな会社が存在しているのか〉という驚きを述べた。〈スターバックスコーヒーの店員が刀を差した武士で、時々お客を無礼打で斬り殺す〉という類の違和感である。
  
  
     三菱地所への社会の目は厳しい。三菱地所は時代遅れの会社と見られている。
  
  
     それは情報公開していないからである。悪徳業者の側に立っているからである。
  
  
     情報公開という大企業としての責任を果たしていないからである。現代社会のルールに従っていないからである。
  
  
     
  
  
     
  
  
    ■ 情報公開の意義
  
  
     
  
  
     情報公開は何のためにするのか。
  
  
     個人が不当にだまされないようにするためである。弱者がだまされにくい社会をつくるためである。
  
  
     社会全体でシステムとして、だまされる人を減らすためである。
  
  
     
  
  
    
      
        | 情報公開は、だまされない権利を個人に保障するためのシステムである。
 
 | 
    
  
  
     
  
  
     情報を隠すことによって、人をだまそうとする悪徳業者がいる。そのままにしていては、悪徳業者に個人がだまされ続けてしまう。悪徳業者に個人がいいようにされる社会になってしまう。そのような社会は、悪い社会である。
  
  
     社会全体で、個人がだまされることを防止する必要がある。そのためのシステムが情報公開なのである。
  
  
     〈虚偽防止性〉という概念を構想してみてもよい。社会全体に〈虚偽防止性〉が必要なのである。人がだまされにくい性質が必要なのである。
  
  
     
  
  
     
  
  
    ■ 社会のグランドデザインとしての情報公開
  
  
     
  
  
     外科の名医を考えてみよう。
  
  
     彼は、その日訪ねて来た奇妙な名前の男が言ったことを考えている。
  
  
     
  
  
    
      
        | 何が、「カルテを公開してください。」だ。
 「手術の過程をビデオに撮って、患者に渡してください。」
 俺のことが信じられないのか。
 「先生のことが信じられない訳ではありません。患者がだまされない社会をつくるために情報公開が必要なのです。」
 何を言っているんだ。
 だいたい「インターネット哲学者」って何だ。
 頭がおかしいんじゃないか。
 
 | 
    
  
  
     
  
  
     彼は名医として患者からの信頼もあついのだ。何十年も、自分のやり方で信頼を得てきたのだ。だから、男の言葉が不愉快なのだ。
  
  
     しかし、彼は考え直す。
  
  
     
  
  
    
      
        | 確かに、俺はカルテを公開できる。ビデオを渡すことも出来る。しかし、出来ない奴らもいるな。下手くそな手術しか出来ない奴がいるからな。
 
 | 
    
  
  
     
  
  
     彼は気づいたのだ。情報公開は自分にとっては何の問題もなく出来ることに。そして、情報公開が出来ない者は実力がないことに。
  
  
     彼は名医である。だから、下手くそな手術をする者は大嫌いである。いいかげんな仕事が許せないのだ。
  
  
     彼は思う。
  
  
     
  
  
    
      
        | あの下手くそどもを困らせるのも面白い。
 情報公開とやらをしてみるか。
 
 | 
    
  
  
     
  
  
     名医は情報公開を決意した。
  
  
     情報公開が一般的になれば、情報公開できない者が目立つ。要注意医師が目立つ。これにより、患者はだまされにくくなる。社会がよくなる。
  
  
     名人であれば、情報公開を求められれば不愉快になる。それは分かる。
  
  
     三菱地所は名人なのであろう。だから、情報公開を求められれば不愉快になる。それは分かる。(注3)
  
  
     しかし、名人ほど、率先して情報公開するべきである。
  
  
     それは社会全体のためである。
  
  
     社会の〈虚偽防止性〉を高めるためである。
  
  
     この問題のポイントは次の点である。
  
  
     
  
  
    
      
        | 情報公開するかどうかは、社会のグランドデザインの問題である。
 
 | 
    
  
  
     
  
  
     確かに、名医には情報公開はあまり必要ないであろう。情報公開しなくても、確かな手術をするのである。しかし、「自分には必要ない」という理由で情報公開を拒否するのは自己中心的である。名医こそ、情報公開をするべきなのである。(注4)
  
  
     問題は、社会のグランドデザインだからである。弱者がだまされなにくい社会をどうつくるかだからである。社会の〈虚偽防止性〉を高めるシステムだからである。
  
  
     情報公開とは、だまされない権利を個人に保障するためのシステムなのである。
  
  
     先の名医は情報公開を決意した。
  
  
     三菱地所はどうするだろうか。
  
  
     
  
  
                                                            
      (2004年12月5日)
  
  
     
  
  
    (注1)
  
  
     
  
  
     略した部分は次の通りである。
  
  
     
  
  
     「建設過程については、売主の独自のサービスである『チェックアイズ・レポート』で各種検査を実施していることは既にご報告させて頂いておりますし、購入予定者の皆様には、内覧会で事前に見て頂き、ご指摘頂いた項目は可能な範囲でお直しした上でお引き渡しをすることでご案内申し上げております。
  
  
    更に購入予定者の皆様の内覧を経て、お引き渡し以降において、万が一にでもお住まい頂く上で支障となるような不具合が発生した場合でも、販売時にご説明させて頂いた『○○○○アフターサービス規準』に準じて対応させて頂きますことをご理解願います。」
  
  
     
  
  
     「建築過程」・「引き渡し以降」の話は内覧会とは直接関係ないので略した。
  
  
     また、私は「お直し」では遅いという主張をしてきたのである。事前に「売主が責任を持って完成させ」よと要求してきたのである。だから、「お直し」の話は筋違いである。
  
  
     私は内覧会を有意義におこないたいのである。だから、売主にちゃんと内覧会に関わるように要求しているのである。その前の話、その後の話は直接関係ない。
  
  
     
  
  
     
  
  
    (注2)
  
  
     
  
  
     これは「代理」の三菱地所住宅販売が内覧会の立ち会いをするという意味なのか。今までおこなわれた内覧会では「代理」の立ち会いすらしてないと聞いている。戸田建設しか立ち会わないと聞いている。戸田建設への丸投げが疑われる。
  
  
     仮に、「代理」が立ち会うとしよう。しかし、疑問がある。「代理」に「販売から引渡までの業務を委託しており」と言う。この「委託」の範囲に建築も入っているのか。内覧会は、部屋の検査をする会である。問題箇所を確認して、直すのである。これは建築の一環である。
  
  
     内覧会前に部屋を検査するのは売主である。販売「代理」が検査をする訳ではない。販売「代理」は全く建築に関わっていないのである。なぜ、建築と関係ない販売「代理」が内覧会に立ち会うのか。内覧会前に検査した売主が、内覧会で買主の指摘を受ける方が自然である。
  
  
     「委託」の内容が不明なのである。三菱地所と三菱地所住宅販売は、「委託」の具体的内容を示さない。具体的に何が「委託」されているのかが、顧客側から全く分からない。これでは、もし何か問題が起こったとしても、どちらに責任があるか分からない。責任の所在がはっきりしない。誠に不明朗である。
  
  
     
  
  
     
  
  
    (注3)
  
  
     
  
  
     私が批判しているのは、三菱地所の顧客対応・情報隠蔽体質である。三菱地所のマンションではない。
  
  
     三菱地所は大筋でよいマンションを造る会社である。だから、名人と言ってもいいだろう。
  
  
     ただ、顧客対応はひどい。念入りに調べてから引き渡しを受けたい顧客にとっては悪夢のような会社である。
  
  
     
  
  
     
  
  
    (注4)
  
  
     
  
  
     名医だからといって、ミスが全くない訳ではない。その場合、名医が患者をだます可能性はある。情報公開していないことを利用して、だますのである。