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● GLAYが選挙を変えるかもしれないという話
            −−選挙のインセンティブを分析する

                   諸野脇 正@インターネット哲学者
                  【e-Mail】 ts@irev.org
                  【Web Site】 http://www.irev.org/
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■ 選挙になると元気になる土建屋
 
 よく知られた事実がある。
 

 選挙になると土建屋は元気になる。
 
 
 選挙になると土建屋は元気になる。土建屋は、特定の候補の選挙活動をする。候補者自身が土建屋の社長であることも多い。さらに、土建屋同士が対立候補として選挙で争うことも多い。
 様々な選挙に次々と出馬する羽柴秀吉(本名・三上誠三)氏も土建屋だ。
 
  ● 平成14年9月 長野県知事選挙
   http://www001.upp.so-net.ne.jp/monzou/hashiba2.html
  ● 平成12年6月 衆議院議員選挙
   http://www001.upp.so-net.ne.jp/monzou/syuin.html
  ● 平成12年2月 大阪府知事選挙
   http://www001.upp.so-net.ne.jp/monzou/P1230383.html
 
 このように土建屋は選挙になると元気になる。
 なぜ、土建屋は、こんなに選挙に熱心なのか。
 それは、自分の生活がかかっているからである。彼らは、公共事業を自分の会社で受注しようとしているのである。自治体からお金を引き出そうとしているのである。(羽柴秀吉氏の場合、氏特有の別の理由があるのかもしれないが。)
 
 
■ 公共事業で食べている山村
 
 次の文章を読んでいただきたい。
 共同通信社の伴武澄氏の文章である。
 

 かつて生糸生産の取材で群馬県のある山村を訪れたことがある。町長にインタビューし「町の生業(なりわい)は何ですか」と質問した。主な生産品目を聞いたつもりだった。「養蚕とコンニャクイモ栽培」という答えを期待していたが、「土木です」という意外な答が返ってきた。「何割ですか」とたたみかけると「そうですね。95%くらいですかね」と言う。町長によれば「職業はと聞けば、みんな農業とか山林業とか答えるでしょうが、95%の人が公共事業で食べていて、残りの5%の人も主たる収入源は土木です」ということだった。
 
 http://www.yorozubp.com/9802/980210.htm
 
 この山村の人々は、「公共事業で食べて」いるのである。「主たる収入源」が「公共事業」なのである。
 このような人々が選挙に熱心になるのは当然である。選挙に生活がかかっているのである。何としても「公共事業」を引っ張ってこなければいけないのである。「公共事業」が無くなっては、「食べて」いけないのである。
 「公共事業で食べて」いる人は、そうでない一般的な人より選挙活動に熱心になる。この傾向は、山村だけでなく日本全国で見ることが出来る。
 
 
■ 歪んでいる選挙結果
 
 次の事実を確認しよう。
 

 選挙結果は歪んでいる。
 
 
 選挙結果は、国民全体の意向を正確には反映していない。
 なぜか。一部の人だけが投票に行くからである。投票に行く人に特定の傾向があるからである。母集団が歪んでいるのである。
 投票に行った人と国民全体とでは、違った傾向を持っている。
 これは土建屋の例を考えればよく分かる。土建屋は選挙に熱心である。土建屋の関係者は必ず投票に行く。「公共事業で食べて」いる人は必ず投票に行く。
 それに対して、一般的な人は、そんなに選挙に熱心ではない。誰が当選しようと、自分の生活に直接影響はないからである。だから、必ず投票に行く訳ではない。雨が降ったら投票に行くのは止めてしまう。投票日が旅行の予定日とぶつかれば、投票には行かない。
 つまり、投票とは、行きたい人だけが行くものなのである。行きたい人には、ある傾向がある。だから、国民全体の意向は正確には反映はされない。
 例えば、土建屋の意向の方が強く反映されることになる。国民全体の意向以上に公共事業がおこなわれることになる。望んではいない道路や橋が作られることになる。
 それは選挙結果が歪んでいるからである。道路や橋を作りたい人の方が熱心だからである。
 
 
■ インセンティブ
 
 土建屋と一般の人とでは、選挙への熱心さが違う。気合いの入り方が違う。
 それは、インセンティブが違うからである。選挙の重要さが違うからである。土建屋にとって、選挙は非常に重要である。生活がかかってる。だから、選挙活動に強く引きつけられる。選挙活動をしたくなる。(注1)
 だから、土建屋の意向の方が通りやすくなっている。
 現状では、このように選挙結果は歪んでいるのである。
 この歪みを正すためには、どうしたらいいのか。より多くの国民の意向を選挙結果に反映させるには、どうしたらいいのか。
 インセンティブを変えればよいのである。
 思考実験をしてみよう。例えば、投票を棄権した者から罰金を取ることにするとどうなるか。みんな「熱心に」投票に行くようになる。罰金を取られたくないからである。インセンティブが変わったのである。
 実際に、罰金を取る制度を採用している国もある。
 しかし、今のところ、日本ではこのような制度が採用される可能性は少ないであろう。
 インセンティブを変える他の方法は無いのか。
 
 
■ カニが選挙を変える
 
 とても、スマートな方法がある。
 カニである。
 

山形 うん。たとえば、ここに希少動物の生息地があるけど、ここを潰すような開発は賛成ですか、反対ですかって投票をするでしょう。すると投票しに来るようなやつというのは、たいていが反対派なわけ。ほとんどの人はそんな、何とかっていう鳥がいようがいまいが知ったこっちゃない。
代わりに公園を作ってくれるんなら、それでかまわないとは思っているんだけれど、でもそういう人は、わざわざそれを言いに投票所まで来るほどこの問題に対する関心も熱意もないのね。すると、ふつうに投票させると、反対派のほうが有利になってしまうわけ。
 でもそれなら、そのふだん投票所にわざわざ来ない人たちを、なんとか来させるような手だてを考えれば、勝てることになる。……〔略〕……で、何をしたかっていうと、投票所の横で一大バーベキュー・パーティーを開いて、投票したら……。
西村 タダでくれる。
山形 そう。ただでカニが食えますって。そこの住民特性を分析したら、なんとかいう特別なカニに目がない人がやたらに多い、というデータが出てきたんだって。……〔略〕……それによって今まで選挙に来ようと思わなかった人がカニ目当てに来る。……〔略〕……で、見事に開発賛成で投票の決着がついたんだって。
 〔山形浩生氏と西村ひろゆき氏との対談、井上トシユキ・宮前.org
『2ちゃんねる宣言 挑発するメディア』文藝春秋、2001年12月、
260〜262ページ〕
 
 
 カニが選挙を変えたのである。インセンティブを変えたのである。
 カニを食べたいというインセンティブのおかげで、本来は投票に行かない関心の薄い層が投票に行った。その結果、選挙結果が大きく変わった。(ハワイでの話である。)
 
 
■ GLAYが選挙を変える
 
 確かに、カニは選挙を変える。
 投票所でカニが食べ放題ならば、投票に行く者は増えるであろう。
 しかし、問題がある。コストがかかりすぎるのである。カニは高い。そんなお金は無い。
 カニの他に、日本人が好きなものはないか。特に、投票率が低い若者が好きなものはないか。
 GLAYがある。GLAYのライブには、途方もない数の若者が集まっている。ものすごい人気である。GLAYなら、カニに匹敵するインセンティブになる。
 GLAYのファンの集いを各投票所付近で開催しよう。TAKURO氏に、そのようにホームページで呼びかけてもらおう。(注2)
 また、投票に行った人に特典を用意しよう。ホームページ上に投票に行った人だけが聞ける新しい曲を用意しよう。投票に行った人だけが見られる画像・メッセージを用意しよう。
 このようにすれば、GLAYファンは投票に行くであろう。あまり選挙に関心の無い一般的な若者の投票率が上がるであろう。インセンティブが変わったからである。
 これは一例である。インターネットを利用することで、お金をかけずにインセンティブを変えることが出来る。
 選挙のインセンティブを変える様々な方法があるのである。
 
 
■ インセンティブを考えよう
 
 選挙結果は歪んでいる。
 しかし、歪みを正す方法はある。
 インセンティブを変えるのである。
 

 1 投票棄権に対する罰金
 2 カニ
 3 GLAY
 
 
 どれも、インセンティブを変える方法であった。
 もう一つ挙げよう。
 

 4 インターネットによる投票の実現
 
 
 インターネット上で投票が出来るようになれば、インセンティブが変わる。自宅で簡単に投票できるようになれば、インセンティブが変わる。携帯電話から簡単に投票できるようになれば、インセンティブが変わる。今まで棄権していた人が投票するようになる。
 例えば、現状では、雨が降ると投票率が下がっている。しかし、インターネットによる投票が実現されれば、自宅から投票できるようになる。だから、雨が降っても投票率は下がらなくなる。
 例えば、現状では、旅行に行くという理由で棄権する人がいる。しかし、携帯電話のネット機能を使って投票できれば、旅行先からも投票できるようになる。だから、棄権する人は減る。
 インセンティブを変えることによって、選挙を変えることが出来る。世界を変えることが出来る。(注3)
 選挙のインセンティブを考えよう。
 世界は変えられるし、変えなくてはならないのだから。
 
                      (2003年11月7日)
(注1)
 
 土建屋にとって、選挙に勝つことは非常に重要である。死活問題なのである。
 山梨の知事選で勝ち組に入った土建屋は売り上げが十倍になった。
 
 井尻工業の売上げは、〔昭和〕六十年十二月期で約五十八億円。うち官公庁工事が六〇%を占める。資本金も選挙後に二回の倍額増資を行ない、現在四千万円。県内大手企業になったと言ってよい。同業者によれば、選挙後に十倍は伸びたという。五十三年当時は売上げが数億の企業にすぎなかったわけである。「だって、井尻んとこはもともと大工あがり。五十三年には土木部門など持っていなかったんですよ。それが選挙後に手を出し、その売上げだけで七億円になっていますから」と先の業者は教えてくれた。社長の井尻は金丸信とも親しい。〔米本和広「集票と利益配分を担う後援会が血で血を洗う政争史を演出した!」『別冊宝島62 自民党という知恵』JICC出版局、1987年3月、229ページ〕
 
 この土建屋は、選挙に勝った後に、売り上げが「十倍は伸びた」のである。「土木部門など持っていなかった」のに「選挙後に手を出し」たのである。
 選挙に勝てば、公共事業を受注できるようになるのである。
 そして、もし負ければ、公共事業を受注できなくなるのである。
 このような状況ならば、土建屋が選挙に熱心になるのは当然である。
 
 
(注2)
 
 GLAYの公式ホームページは次のものである。
 
  ◆ GLAY : HAPPY SWING SPACE SITE
   http://www.glay.co.jp/
 
 
(注3)
 
 さらに、次のように思考実験してみよう。
 公共事業を全く無くしたら、どうなるか。
 そのような状況ならば、土建屋は選挙になっても元気にはならない。
 元気になっても、意味が無いからである。公共自治体から工事を受注できないからである。
 公共事業が全く無ければ、選挙は全く変わる。

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 ◆インターネット哲学【ネット社会の謎を解く】◆ 46号掲載
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